懐かしくて色褪せないもの

世界が平和であればいいね

世界に一つだけの映画『wonderful life』について

『wonderful life』は,是枝裕和監督の映画です。

だと言うだけでは良さは全く伝わらないので…。何となくのあらすじを。

 

人が死んでしまう前に、実は誰しも別の世界に出会うのです。其の世界は、温暖で柔らかで、駅の待合室のベンチがあって、座った時の妙な温もりも大気も、落ち葉のカサコソも、照射する光と校舎の木造の柱と、すべてが含まれているのです。私たちは此の空間の裡で、幾つかの物事を決めなければいけません。

其れは、朝起きた時の後ろに跳ねた髪の毛をどうやって直すのかという点と、…自分の今迄に過ごしてきた人生の中で一番思い出に残った”たった一つ”を決めるということです。人々は、冬を待つ校舎の中で、思い思いに自分の一番心に残った瞬間を探します。生命を懸ける大々的な思い出なんてないですから、在り来たりで平凡な日常を、其れも其の在り来たりさを受容できた時にきっと見つかるのです。

 

私たち平凡な人間が、平凡な日々を素直に「美しい」「素敵だな」と思えるようになるまで…。そんな物語です。妥協ではないのです。強さなのです。

 

映画の中でお互いの読んでいる本を訊き合うシーンがあります。

 「何読んでるの?」

 「  日本大百科事典…

     時間だけはたっぷりあるからね   」

と言いつつ表紙の真っ黒な分厚い本を取り出す。事典のタイトル部分だけ、ちょっぴり赤いです。彼女は両腕で、不格好な事典を抱えています。其の内側にはカラメル色の堆積層が含まれているのです。

■"時間”という概念について、考えてみます。其れは量でも質でもなく、感情と言った方がまだ近しいと思います。正解や不正解では測れない、人間の思考する前に立ち返ったような、何かそんな存在なのです。”時間”≒”自由”?

ただ其処に伸び行くだけで美しい樹木。そんな懐かしい空白を感じさせてくれる映画……。

 

 

もう一つ、時々大切に思うことがあります。

悩んだり迷ったり、「もう駄目だ」と思ったり、「死にたい」だなんて冗談で言ってみたり、其んな私たちの下らない日々。 大袈裟すぎますか? でも其れは平穏で優しいです。コーヒーカップの底から揺蕩うクリーム色の湯気…。

結局、悲観するのは自分で自分の枠を作っているからだと思うのです。ほとんどのことはどうでもいいのです。今此処に生きていることに比べたら。

私が死んでしまったら、私の裡に夢見ている世界も全て絶えてしまいます。人類全員に共通することです。全ての人間は世界を創造します。其のことに比べたら、悲しい出来事なんて一つもありはしない筈です。きっと。

其の位の傲慢さをどうか許してください。

 

『wonderful life』の映画は、弱い私に勇気を与えてくれます。