夜に見上げた月が剰りに美しいから、
文章を書きたくなるじゃないか………?
夜道を一人で歩いているとどうしても考え事をしてしまうよね。
此れはそんなある日に考えたお話。
そしてまた本当にあった話。
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茜色の空は人々を幻想的な気分に変える。
この時刻は、未知の惑星や文化や機械文明……など様々な観念が人々の頭上を去来する狭間の瞬間。其れぐらい心の底の柔い想像癖を鮮やかに摩滅するのだ。
私は駅の構内から地上に脚を降り立てて、外気の夕方特有の曖昧な寒暖差に身を任せていた。広い空には、少しずつ太陽が遠風景に沈みかけている。
帰宅目的の人々は私の脇を軽やかに擦り抜けて過ぎ去るけれど、私はもう少しこの少し気怠気で常温の時間帯を麗らかに楽しみたいと願っていた。
アスファルトの路の反対側から一人の少女が私へ向かって駆けてくる。其のリュックに結び付けられたキーホルダーは、少女の両足が跳ね上がる度に、楽隊のトランペット奏者のような豊かな音色を響かせる。皆は、其の金属面の擦れる音エネルギ―の反響に振り向くけれど、当の本人は含羞みながら真っすぐに私の目前まで駆け抜ける。きちんと洗濯された一足の水色シューズが”ちょこん”と私の目の前まで来て止まった。
「空を飛ぶ車があったよ。………!」
遂にspilbergの世界が到来したのかな?私は少女の微笑む口元から零れる言葉を受け取って、思わず”美しい”人だと思ってしまった。きっと澄んだ瞳を一心に伸ばしていける人でないと、大空を信じてしまうことは出来ないんだね。私は少女の温かい黒髪と雀斑のある頬っぺを見ていた。
そして少女の左腕と左手と其の左人差し指が指し示す方向へソッと顔を向けた。
其処には緑と青の二色で染色された一台のタクシーが停まっていた。
そして其のタクシーのフロントガラスには、”空車”と描かれた赤いランプが乗車するお客さんを待ってテカテカと光っていたんだ。
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