懐かしくて色褪せないもの

世界が平和であればいいね

『幻の光』

 

幻の光』。是枝裕和監督の映画です。

 

多分、是枝裕和さんという方が、人間の平凡な日常と其の裡で醸される感情の機微ということに鋭敏な感覚を持っているのだと思います。

幻の光』は、一人の人間の平凡な日常に対して重点を置いていると思います。

ただ何となく不思議と自殺してしまった主人公の夫に関する限りでは、平凡と称するには不謹慎でありますけれども……。

自殺ということのみではなく、もっと普遍的に人間は遍く生と死の感情を抱いているのです。其れは激しさではなく寧ろ静かに内奥で燻っています。「其の生と死の天秤が、明暗の天秤がほんの少し傾いただけで、人間は死んでしまうかもしれない、若しかしたら生きてしまうかもしれない。そして其の生と死のバランスをとりながら行われる静かな生活こそが人間の本来の営みなのです。」というようなことを伝えたかったんじゃないかなと私は勝手に解釈しています。

100%の”生”なんて存在しないのですから、人間はいつも其の両端の存在を司どっています。そしてそこから恐れも喜びも織り成されていくのです。一人の人間の影も光も複合的に結びついて、絶対的にその人間を作り出します。危うさを含まない人間はきっと希薄な人であって、逆説的に全ての人間は歪みを孕んでいる筈なのです。

とりたてて大きな原因が無くても人間は死んでしまう可能性を秘めています、きっと。私には其の原理が分かる気がします。

 

”生”と”死”を対比や善悪論で捉えることはきっと間違いなんです。其れ等は糾われた一本の縄なのです。